上巻では主にアメリカの外で起きていることを明らかにして、下巻ではまずアメリカの中で起きていること、これから起きようとしている事に対して、強い警鐘とともに明確な提言を行っています。核装備といった軍事的な脅威が目に見えるという冷戦時代からその経済的な脅威が見えない(故意に見えなくされているかも?)静戦時代に入ったのかもしれないなと思いました。著者は、アメリカの、特に教育システムの、危機とその対策を提言していますが、このシステムは少子化が加速してかつ移民も受け入れてない日本でこそ推進していくべきなのかもしれません。ニートの問題が取りざたされてますが、例えば移民を受け入れて、静戦の脅威を目に見える形にするといったことも効果があるかも。
page11 私は自分の娘たちとそういう会話をしたくない。だから、ふらっとな世界にいる彼女たちへのアドバイスは単純明快で味気ない。「いいか、私は子供の頃親から『トム、ご飯をちゃんと食べなさい。ーーーーー中国とインドの人たちは食べるものもないのよ』といわれた。おまえたちのアドバイスはこうだ。宿題をすませなさい。ーーーー−中国とインドの人たちがおまえたちの仕事を食べようとしているぞ」
早速いい文章が。この人は、分かりやすく表現するのがうまい。
この戒めは、これから徐々に大きくなりつつあるアメリカ人の苦悩をうまく表しているかも。
page12 私の辞書の無敵の民とは、「自分の仕事がアウトソーシング、デジタル化、オートメーション化されることがない人」を意味する。
これまたすばらしい。知識労働者はこれにつきるでしょう。ドラッカーもにたようなこと言ってたかも。
page14 ここで大胆な予言をしよう・・・現在もかなりその傾向があるのだが、将来、国際貿易の重要な特徴は、物が箱に入れられるかどうかとは無関係になる。そうではなく、サービスの質をまったく低下させずに、あるいはほとんど低下させずに、電子的な手段で遠いところに配達できるかどうかが問題になる。(プリンストン大学のアラン・ブラインダーの論文より)
モノの貿易とビット(やサービス)の貿易の金額ベースでの比率を見てみたいと思いました。かなり後者が増えてるんでしょうね。かつ、どういう感じでお金が流れていて、その流速というか加速具合がわかるとこの予言がすでに起こっていることが良くわかるかも。
page21 (デルの)付加価値は、誰にも負けない合成能力だ。消費者の需要を中心に合成するのが、成功の秘訣だ。
自分の得意分野は他人と違う突出した何かであるべきだと思うのですが、今世の中に出回っている素材をいかに合成していくか、というのはいい表現ですね。素材というところで、料理の"合成技術"を思い出しましたが、Web2.0なんかでは、素材はデータとサービスってことになるんですかね?
page22 複雑なことをうまく説明できたら、ビジネスチャンスは確実にひろがる。
おっと、簡単に書いてあるけど、大事なこと実現が難しいこと。コンサルタントには元々必要とされている技術なのかも。
page44 「アメリカその他の裕福な国々は、自分たちの社会に実際に存在する仕事ができる労働者を生み出す教育システムへ移行しなければならないだろう」
無敵の民 新ミドルになるためにどんな教育を受ける(受けさせる)べきかということを言っています。極端にいうと、アウトソースされない仕事に就けるような、またそういう仕事を創れるような人材を育てるための教育システムが必要になるということかな?学校に限らず、企業においてもこれはいえるかな?
page47 フラットな世界では、IQ(知能指数)も重要だが、CQ(好奇心指数)とPQ(熱意指数)がもっと大きな意味を持つ、と私は結論づけた。
また、おもしろい言葉が出てきました。CQとPQが高いと自然とIQが高くなりそうです。つまり、IQの高さはCQとPQの高さに比例しそうな気がします。ここを読んで、エジソンが電球を発明したときのエピソードを思い出しました。
page53 外国人が左脳の仕事を安くできるというなら、われわれアメリカ人は右脳の仕事をもっとたくみにやろう。
アメリカ人を日本人に置換して、頭に刻んでおくことにします。
page89「(インテルの)国際大会に出場が決まると、大学の入学試験が免除されます。」
中国ではこういうことしてるそうです。人口が多い分、層も暑いようですが、こういうシステムが学生のモチベーションを高めているんでしょう。さて、日本では?高校生クイズなんてやってる場合じゃないのかも...
page119,120 (インテル会長クレイグ・バレットの言葉)「かりにアメリカ人をこの先一人も雇わないとしても、現在では、世界中の優秀な人材を雇うことができるし、それで繁栄していける」
これまたガツンとくる一言。企業が繁栄するために今やアメリカの最優秀クラスを雇わなくても良くなっている。単純なアウトソースを心配している時代じゃなくて、すでにより高度な仕事すらアメリカ人が必要とされてないという事実ははっきりいって怖いですね。インド中国からアメリカにアウトソースする時代が来る?
page242 優良企業は、縮小するためにではなく、勝つためにアウトソーシングする。
勝つ方法は、アウトソーシング等によるコスト削減ではなくて、保有している資産の有効活用をさらに進めるため、と考えたほうが良さそうです。これは、アウトソーシングされるほうも、アウトソーシングするほうも、強く意識したほうがよさそうですね。
12章フラットでない世界は読んで暗くなってしまうような内容です。
”力を奪われた人々”:インドの新たな格差社会という爆弾について書かれた箇所です。先日起きたムンバイの爆破テロがこれに当たるかどうかは分かりませんが、ニュースではビジネスへの影響と声高に言ってましたので、当たらずとも遠からずかもしれません。
”やりどころのない不満を抱えた人々”:アラブ・イスラム世界の変化・進化を嫌悪し排除しようとする過激な人々について書かれた箇所です。端的にいえば、ビン・ラディンに代表される暴力によって、アメリカなどに屈辱・侮辱を与えている人たちの話です。世界はフラット化しつつあるのに、自分たちは海抜のすさまじく低いところに位置していることの不満。またフラット化され風通しが良くなる世界によって、イスラム教による宗教支配が困難になることへの不安。この二つを解決するために、世界のフラット化を進めるアメリカ・ヨーロッパに対して攻撃し、屈辱を与えることで自分たちの低い位置にいるという不満を解消しようとしている、といったことを著者は書いています。これをどうやって世界的な解決に結びつければいいんでしょうね?アメリカがグロバリゼーションを進めれば進めるほど、アラム・イスラム世界の過激派にとっては不満の種になるし、その不満を押さえつけるために武力で解決しようとしてももっと無理でしょう。
”エネルギー危機への処方箋”:新たな天然資源戦争の火種はすでにくすぶっていそうです。page309のマラッカ海峡、中国、アメリカの関係は非常に興味深いです。知りませんでした。中国やインド、ロシアといった新たな天然資源大喰らい国家を説得するには、先進国がまず模範を示す必要があります。
page312 (ある中国人留学生の台詞)「アメリカやヨーロッパは好きなだけエネルギーを消費して発展してきたのに、なぜ中国が消費を抑え、環境に気を配らなければならないんですか?」
page314 中国がエネルギー消費を大幅に減らすように仕向けるには、アメリカが消費形態を変えて手本を示すのが一番いい。そうこで初めて、われわれは他人に説教する資格が持てる。「エネルギーに関するわれわれの倫理的立場を回復することが、いまや国家安全保障と環境問題のために重要になっている」と、(エネルギーエコノミストの)バーレガーは指摘する。
page317 (ブッシュ政権をかなり批判したあとで)グリーンこそが、新しい愛国心なのだ。
中国には、新しいエネルギー消費方法によってより高い生産性・競争力を得られる、といったことを教えていくか気づいてもらうのが良い気がしました。グリーンこそが新しい愛国心、というのはかっこいい台詞です。ステッカーにしたら売れるんじゃないでしょうか?
第13章 ローカルのグローバル化という章からは以下を引用しておきます。
page322 ローカルのグローバル化は「逆グローバリゼーションである。グローバルなメディアがアジアを押し包むのではなく、その地域のローカルなメディアがグローバルにひろがる。」
page325 しかし、資本主義や市場主義、自由貿易を押し広げることだけが、グローバリゼーションなのではない。グローバリゼーションは純然たる経済現象ではないし、経済のみに影響をあたえるのではない。もっと幅広く、深く、複雑な現象であり、新しい形のコミュニケ−ションやイノベーションがそこに含まれている。
これは、YouTubeやGoogle Videoのコンテンツを観てるとよくわかります。こういうフラットなメディア発信・配信サービスはあっという間に世界に広がって、コンテンツがローカルから世界に配信されてる。個が自身のイマジネーションを最大活用して創作するコンテンツは大きなメディア(政治とか宗教とかも含めて)を脅かす力になる日も近いかも、そんな気がします。
第14章 デルの紛争回避理論では、現在のグローバル化したサプライチェーンがもたらす世界の安定につい書かれています。簡単に書くとグローバル化サプライチェーンに組み込まれた国は、サプライチェーンに組み込まれることによって経済の安定を得ており、迂闊に(サプライチェーンを破壊する、また破壊からの復帰を困難にする)戦争や紛争に手を染めることができなくなっている、ということでしょうか?2002年インド・パキスタンの緊張状態がいい例のようです。そういう火種がアメリカやその他の先進国に与える影響の大きさはとんでもなく大きくなっていることが分かります。アメリカはやっぱり武力ではなくて経済活動で世界を安定させるべきな気がします。それがよく表現されているのが、以下。
page351 「失礼を承知でいいますが、マクドナルドが店じまいしても問題ありません。でも、ウィプロが店じまいしたら、とんでもない数の企業の日常業務に支障がでるでしょう。」
日本と韓国が政治的にはなにかと不安定な感じがしますけど、お互いの経済依存度が高いために絶対に破綻しないでしょうね。あんまり韓国が日本を叩きすぎると日本国内に嫌韓的な雰囲気が広まるかも。韓流なモノが流行っている(もう下火なのかもしれませんが...)のは政治的な反感の反動なのかもしれません。
Page353以降の負のサプライチェーンともいうべきアルカイダの例は空恐ろしいものがあります。このサプライチェーンが完璧に動いているというのも世界のフラット化の一面でもあるようです。こういう活動をあきらめさせるようにするには、これもまた武力ではないような気がします。
この章は以下のような印象的な言葉で締めくくられています。
page365 「神が人間をバベルの塔から地の全面に散らし、言葉が通じ合わないようにしたのは、人間が協力すること自体を望まれなかったのではない。神が激怒されたのは、協力の目的に対してだった。天に届く塔を建て、神になろうとしたからだ。」
page366「人間が力を合わせるのは神に背くことではない。目的が問題なのだ。お互いに意思を伝え、共同作業を行なう新しい能力を、正しい目的のために使わなければならない。」
最終章となる第15章 イマジネーションでは、14章の最後で語られた正しい目的の共同作業を行う上でのイマジネーションの重要さを強調しつつも、アメリカ政府(はっきり言えばブッシュ大統領)の現在の間違いを厳しく指摘しています。
最後に引用してこの感想文を終わりにします。また時間を開けて読むとこの本の凄さが分かるような気がします。
page401 「人間は人に教えられるのではなく、自分の目で確かめた結果として変わる」
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